音楽

ロス・フロム・フレンズ『Tread』UKクラブミュージックの旨味が凝縮された2ndアルバム!

踊り足りないすべての人におすすめなのが、ロス・フロム・フレンズ(Ross From Friends)の2ndアルバム『Tread』(トレッド)!
ホームリスニングにもぴったりです。

ロス・フロム・フレンズの経歴


ロス・フロム・フレンズことフェリックス・クラリー・ウェザオール(Felix Clary Weatherall、以下フェリックス)は1993年6月、イギリス・コルチェスター生まれのプロデューサー&DJ

Pale Blue Dot


1990年、80年代に自作したサウンドシステムをバスに積み込み、ヨーロッパ中を旅してハイエナジーHi-NRG)や初期テクノのパーティーをオーガナイズした父、その旅に賛同して映像記録を残した母というレイヴァ―家族のもとで育ちました

Talk To Me You’ll Understand

複数の名義を経て、ロス・フロム・フレンズと名乗るようになったのは2012年。

ロウハウスRaw house)のサブジャンル、ローファイハウスLo-fi house)の注目レーベル<Lobster Theremin>(ロブスター・テルミン)などを経て、フライング・ロータスFlying Lotus)主宰のレーベル<Brainfeeder>(ブレインフィーダー)と契約しました

Epiphany


ヒップホップのサンプリングカルチャー、90年代のレイヴカルチャー、テクノ、ハウス、ローファイなど、さまざまな要素が盛り込まれたダンスミュージックを展開しています。

Burner


自身のレーベル<Scarlet Tiger>(スカーレット・タイガー)を立ち上げると同時にシングル「Burner」(2021年1月14日)をリリースするなど、精力的に活動しています。

アルバム『Tread』の概要


2ndアルバム『Tread』は2021年10月22日に<Brainfeeder>からリリースされました。

シングル2曲を含む全12曲・52分半ほど、日本盤CDはボーナストラック「Love Divide (Phonox Mix)」が追加された全13曲です。

ロックダウン中、レコーディング用ソフトを自作してからアルバム制作に取りかかったフェリックス。

ロンドンでの活動10年の足跡(Tread)が凝縮された名盤です。

【1】The Daisy


リードシングル「The Daisy」(2021年8月25日、9月29日)。

90年代にイギリスで生まれた電子音楽エレクトロニックミュージック)の一種、UKガラージとそのサブジャンル、2ステップの2010年代リバイバルの影響が感じられるサウンドです。

【2】Love Divide


デジタルシングル「Love Divide」(2021年9月29日)は1曲目と同じくエモーショナルな女性ボーカルが入るテックハウスです。

ルービックキューブ(1曲目)、前後逆で顔がない人々(2曲目)が出てくる不思議なMVと併せて、独特の世界観に引き込まれます。

【3】Revellers


キャッチーなミニマルフレーズが変化しながら積み重ねられる「Revellers」、タイトルは「飲み騒ぐ人々」という意味です。

両親が体現したセカンド・サマー・オブ・ラブも昔の話。

かつてパーティーが開催された跡(Tread)をたどり、ロックダウン中なので「飲み騒ぐ人々がいない」と哀愁に浸っているような切なさが醸し出されています。

【4】A Brand New Start


「A Brand New Start」は米ヒップホッププロデューサーのマッドリブMadlib)へのオマージュ曲
60~70年代ソウルのサンプルがモジュラーシンセで加工されています。

【5】XXX Olympiad


ボーズ・オブ・カナダBoards of Canada)やエイフェックス・ツインAphex Twin)のようなエレクトロニカアンビエントの要素も感じられる「XXX Olympiad」。

オーティス・レディング「For Your Precious Love」


おそらくオーティス・レディングOtis Redding)の2ndアルバム『The Great Otis Redding Sings Soul Ballads』(1965年3月)に収録されているカバー曲「For Your Precious Love」(3:20~3:36)など、60~70年代ソウルのサンプルが使われています。

【6】Grub


「Grub」はブリアルBurial)を彷彿とさせるポストダブステップフューチャーガラージ、90年代イビザバレアリックのようなブレイクドロップが印象的。

【7】Spatter/Splatter


「Spatter/Splatter」はトライバルなビート、マントラのようなボイス、浮遊感あふれるシンセ、乱れ飛ぶパーカッションの音色が心地いいアンビエントです。

逆再生などの加工が施されたサンプル使いはローファイ的。
最後に鐘の音が響き、カタルシスに達します。

【8】Morning Sun In A Dusty Room


90年代イビザのチルアウトを彷彿とさせる「Morning Sun In A Dusty Room」。

ボーズ・オブ・カナダの1stアルバム『Music Has The Right To Children』(1998年4月)を思い出す人もいるでしょうか。

【9】Run


アルバム全体は「前半:ダンスチューン→後半:アンビエント」という流れですが、そのなかでも「Run」は異色作。

1曲で「実験音楽的なアンビエント→ゆったりとしたBPMのダンスチューン→実験音楽的なアンビエント」という構成になっています。

【10】Life In A Mind


ソウルフルなボーカルサンプルと共に、フォルティDLFaltyDL)のようなUKガラージ、ダブステップを堪能できる「Life In A Mind」。

デスティニーズ・チャイルド「Say My Name (Cyril Hahn Remix)」


後半のシンセラインは、スイス出身でカナダを拠点に活動するプロデューサー&DJシリル・ハーンCyril Hahn)のシングル「The Love Below #1」(2013年4月)のカップリング曲、デスティニーズ・チャイルドDestiny’s Child)「Say My Name (Cyril Hahn Remix)」をサンプリングしたのでしょうか。

【11】Thresho_1.0


タイトルにもなっている「Thresho」はフェリックスが開発した、Max for LiveマックスフォーライブM4L)用プラグイン

M4Lは、ドイツのAbletonエイブルトン)社のDAWソフトAbleton Liveエイブルトンライブ)の拡張機能であり、デバイスの自作・改造などができるプラットフォームです。

「Thresho」はレコーディングに役立つプラグインで、実行したまま楽器を演奏するなど、オーディオのしきい値(Threshold)に達すると自動的に録音が始まり、しきい値を下回ると自動的に録音が止まるというもの。

事前に「Thresho」を開発したことですべてのアイデアが録音され、アルバム『Tread』制作の基盤になったそうです。

フェリックスはこの膨大なレコーディング音源を公開し、プラグイン「Thresho」もダウンロードできるようにしています。

【12】Thresho_1.1


ラストは11曲目のバージョン違いで締めくくられます。

おわりに

往年のテクノやクラブミュージックのおいしいところがポップに昇華され、なおかつ最先端の味つけが存分に施された『Tread』。

なかなか大騒ぎできない状況でも、日常生活を踊るように楽しく過ごすお供になってくれるのではないでしょうか。

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渡辺和歌
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